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「大阪倶楽部」と「今橋ビルヂング」淀屋橋界隈の大大阪モダン建築探訪

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S.L
大大阪と近代建築 !

大正後期から昭和初期にかけて、東京を凌ぐ東洋一の商都として大阪が栄えた時代。時の大阪市を人々は 大大阪だいおおさかと呼びました。

日本の経済・文化の中心として栄華を極めた時の大阪の町には、日本一多くの人が住み、豊かな文化が花開き、数多くの近代建築が建設されます。

大阪市の中心部には100年近くの時を超えて、数多くの近代建築が今も残っています。

大阪淀屋橋

大阪の大動脈 “御堂筋” に架かる 淀屋橋 

橋の南西に居を構えていた、江戸時代の大豪商 “淀屋” が米市の利便のために架橋したのが最初で、現在の橋名もこれに由来しています。

意識して辺りを見渡すと歴史情緒を感じる建築や史跡がちらほらと存在してます。また、淀屋橋や北浜界隈には大大阪時代に生まれた、近代建築が幾つも残っており、往時の面影を色濃く伺う事ができます。

今回は淀屋橋エリアの歴史的建造物を見学しながら散歩したいと思います。

大阪倶楽部

大阪倶楽部 は淀屋橋の南西エリアにある、大大阪時代を代表する近代建築のひとつ。

1912年(大正元年)から存在する、紳士のための会員制社交倶楽部ですが、初代の木造3階建の会館は火災によって消失しています。

重厚な外観意匠が特徴的な現会館は、会館消失からわずか2年後の1924年(大正13年)に竣工したものが、大阪大空襲の戦火を逃れ、90年以上の時を経て現存し、今も現役の会員制社交倶楽部として使用されています。


瀬戸産素焼タイル仕上げの外装

安井武雄の自由様式

現大阪倶楽部の設計者は、大阪ガスビルの設計でも有名な 安井武雄 で、施工は大林組。

建物の建築中に東京で発生した関東大震災の災禍を見て、当初の設計に再検討が加えられ、より耐火や耐震を重視した構造になっています。

昭和20年の大阪大空襲で放たれた焼夷弾によって焼け野原となった大阪市の中で、大大阪時代の近代建築が戦火から逃れて現存しているのは、耐火性に留意した構造や、窓に鉄製の防火扉や防火シャッターなどを設置していたことが理由にあげられています。


芝川ビルの鉄製防火扉

大阪倶楽部の竣工パンフレットには、設計者の安井武雄が自ら「南欧風の様式に東洋風の手法を加味した」と記していますが、何とも言えぬ独創的な意匠。

建築近代化の激しい流れの中で、ひたすら「真にして美なるもの」を求めて自立の道を歩み続け、独自の建築を創造した安井武雄の「自由様式」の象徴とも言われています。

旧ローマ市街の建築によくみられる石のアーチには植物紋様の装飾が施され、ファサードに4本配されたトーテムポール風の石柱の上には謎の怪獣が鎮座しております。細部の彫刻は確かにどこか東洋風が感じ取れますね。

外壁は伊奈製陶製の瀬戸産素焼きタイルで仕上げられています。ちなみに 伊奈製陶いなせいとうは INAXイナックス社の前身で、現在は総合建材メーカーの LIXILリクシル社。

年季が入り一目でその歴史が伺える重厚な外観は、オフィスビル群の中で、ひときわ異彩を放っています。

オリエンタルな内装

玄関をくぐると、床の市松模様の大理石や、天井のシャンデリアという装いのロビーが迎え入れ、大阪最古の社交倶楽部の風格を感じさせてくれます。

玄関正面に施された “翡翠ひすい” の眼球を持つ 邪鬼 の噴水は、会館を災いから守るという謂れがあるそうです。

邪鬼のモニュメントに使用されている、朱色のタイルが何となく “泰山タイル” っぽい風合。

少ーし、布目っぽい柄が入ってるモノがあったり、それっぽい窯変があったり。。大正後期という築年も、泰山製陶所の活動期間とも合うんです。

倶楽部の方に聞いてみたのですが、第二次世界大戦後、米軍のGHQに会館の全てを接収されていて、詳しい文献は一切残っていないとの事でした。

残念ながら推測の域を出ないので、何かご存知の方がいらっしゃったら教えて下さい!

花模様のステンドグラスを中央に飾った、琥珀色のガラスから階段に落ちる光がなんとも妖艶な雰囲気。赤毛氈とクラシックな木製階段手摺のコンビネーションが華麗さを演出をしております。

堅牢な構造と意匠性の両立

装飾が施された梁とハンチ

会館内には用途別に沢山の部屋がありますが、“梁” と “ハンチ” の装飾が部屋ごとに異なっているのが此方の特徴です。ハンチとは、鉄筋コンクリート造の建物において、柱にとりつく梁の端部の断面を強度を上げるために大きくした部分のことを言います。

4階 大ホールの梁とハンチ

また、小磯良平や児島虎次郎の名画が飾られた食堂のある2階には、近年にも鋳鉄製ブロックを用いた耐震補強壁が、一世紀前に同会館を竣工させた大林組の手によって施工されています。

格子状になった補強壁が、耐震性能を向上させながら、採光や通風を損なわない様に工夫されているとの事です。

 “集う”がコンセプト

“集う” をコンセプトに設立された大阪倶楽部は、特定の業種、業界に偏ることなく有識者らが集い、「知の交流と心のふれあいの場」として設立された伝統と歴史ある会員制社交倶楽部です。

「大阪の近代名建築」の一つと言われ、現在は国の有形文化財の指定を受けています。

僕が大阪倶楽部に伺ったのは、定期的に予約制で行われている見学会の日。この日も、会員の方々が談笑されたり、ビリヤードに興じたりされておられました。

いつか、こんな倶楽部に通える紳士になれればなぁ…

などと思いながら、会館を後にします。

今橋ビルヂング

大阪倶楽部の斜め向かいに、歴史的建築物を活用した ル・ポンピエーレ というイタリアンレストランがあります。

1925年(大正14年)に、大阪倶楽部竣工とほぼ時を同じくして生まれたこのビルは、かつて大阪市の “消防署” だった建物。正面中央の赤いランプにその面影が見られます。

奇跡のビルヂング

実はこちらの建造物は、大阪市が財政改善のために資産の一部を売却すべく、2005年に入札にかけられています。後に今橋ビルヂングと名付けられたこの建物は、一個人オーナーが取得することになります。

スクラップ&ビルド思考が強い日本では、古建築は改修工事や保存維持に結構なコストがかかるので、特別な理由がない限り解体される事が多いのが実状です。

しかし、このビルを落札された新しいオーナーさんがアンティークなどの古いものに嗜好があった方で、既存の建物に耐震補強を施した上で、レストランにコンバージョンしたという、歴史的建造物マニアには神対応とも言える奇跡のビルなのです。

店名の「ダル・ポンピエーレ」はイタリア語で「消防士」のこと。古い建築を活かすのはイタリアでは当たり前。料理だけではなく、お店を含めた建物自体が本場仕込みってのが粋ですねぇ。。

Mole & Hosoi Coffees

淀屋橋界隈の近代建築群のひとつ 芝川ビル

1927年(昭和2年)に、船場の豪商と言われた伏見町の唐物商、芝川又四郎によって建てられた建築です。南米マヤ・インカの装飾を纏ったエキゾチックな外観は、大阪倶楽部と負けず劣らず男前な風貌。

建物自体も魅力的なんですが、地下にあるカフェが、アンダーグラウンドな雰囲気が好きな方にはかなりオススメです。

店名の「mole」とは英語でモグラのこと。こちらのカフェはビルの地下金庫室を利用して造られています。

淀屋橋や大阪船場エリアの近代建築を堪能した帰りにフラっと立ち寄りたいお店です。

あとがき

淀屋橋や北浜界隈を中心とした北船場エリアや、中之島エリアには、まだまだたくさんの魅力的な近代建築が残されています。

平日はビジネスマンが行き交う活気のある街ですが、土日や祝日は比較的人も少なく非常に静か。点在する大大阪時代の近代建築を眺めて歩く散歩もなかなか面白いものです。

では、また !


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今回行った場所

大阪倶楽部 公式ホームページ ※館内見学は完全予約制

今橋ビルヂング | ダル・ポンピエーレ 関連サイト(食べログ)

Mole & Hosoi Coffees 公式ホームページ

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