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嗚呼、麗しの「泰山タイル」を探して近代建築を巡る

投稿日:2018-02-05 更新日:

Hamzo
What's “ TAIZAN ”?

「泰山タイル」なるモノをご存知でこのページを開いて頂いた方は、所謂、近代建築好きの方が多いのではないでしょうか?

明治中期から大正・昭和初期に建てられた近代モダニズム建築を訪れて、それらの歴史や空気感に触れる事が趣味である僕にとって、泰山タイルは、色々なシーンで出会う機会が多い“マルチタレント”みたいな印象の歴史的装飾材。

(左)大阪綿業会館(右)京都きんせ旅館

一時代の歴史を作ったであろう時の財界人たちが会した、重厚な趣を持つ社交倶楽部の談話室の壁面を妖艶に飾ってみたかと思えば、京の旧花街にひっそりと佇む、揚屋跡を利用したカフェの片隅ではんなりと空間を彩ってみたり。

(左)旧甲子園ホテル(右)ヴォーリズ六甲山荘

きりっとした印象のフランク・ロイド・ライト様式の建築で存在をアピールしてみたかと思えば、親しみやすく包容力のあるヴォーリズ建築の一片でさりげなく空間に溶け込んでみたり。

それぞれの建築に寄り添い、それぞれのシーンで違った顔を見せながらも、よく見ると、何故か同じ共通の雰囲気や哀愁みたいなものを感じさせる、不思議な魅力があるタイルです。

泰山タイルとは?

泰山タイルとは、創業者である“池田泰山”が設立した“泰山製陶所”で造られたタイルの事。

京都市南区東九条に製陶所が設立されたのが1917年(大正6年)。大正期といえば洋風建築の勃興に伴い、タイルの機械生産が本格化され始めた頃になります。

外装においても、1923年(大正12年)の関東大震災を境にして、明治建築界の巨匠“辰野金吾”が得意とした煉瓦の外観から、小口平タイルや二丁掛けタイルが用いられ始めます。

機械生産によるタイルの需要が高まる一方、泰山製陶所のタイルは、大量生産のそれとは異なる路線を歩み、工業製品としての仕上材ではなく「美術工芸品」としての側面から、建築用の装飾タイルの製造技術に活路を見出していきます。

手作りならではの趣があり、一枚一枚に異なった表情と味わいがある泰山タイルは、現在も尚、多くのタイルファンから愛されています。

気さくな美術品 “TAIZAN”

泰山製陶所の建築装飾作品は、代表的なものでは「秩父の宮廷」や各宮家の邸宅などの宮内庁関連などの格式高い施設から、「東京帝室博物館(現東京国際博物館)」「京都市美術館」「大阪綿業会館」などの歴史的名建築、そして「先斗町歌舞練場」「神戸女学院」などの文化的価値の高い施設に数多く納められています。

京都|先斗町歌舞練場

その一方で「喫茶店」「バーラウンジ」「銭湯」などの超庶民的な商店や一般家屋に至るまで、泰山タイルは製陶所のある京都を中心に幅広く取り入れられてるのが、今も尚、泰山ファンが多い理由のひとつではないでしょうか?

“京都の町歩き” や “近代建築見学”が好きな僕にとっては、泰山タイルを見つけるのも楽しみのひとつ。

京都の路地を歩いていると「ん!? これ泰山の布目タイルじゃね?」っていうタイルが古い民家のファサードや土間に貼ってあったり、大阪の近代建築のなかにも「うーん・・ これってなんとなく泰山っぽいなぁ・・」なんていうタイルが施工されていたり。

しかし聞いてみても、詳しい建築文献などは100年近くの歴史のなかで戦後GHQに接収されていたり、そもそも、一般家屋にはそんな履歴など残ってる訳でもなく…

また、当時ブームになったであろう泰山タイルを模した、泰山風タイルが世に出回った事も考えられる。

でも、そんな事よりも、日本の暮らしの近代化が進む中で多様なシーンで使われてきた一世紀近く前の“名建材”が、今もどこかの文化財や邸宅をひっそりと彩っているかと思うと無性にワクワクするのです。

では、僕がこれまでに出会った“泰山タイル”を少しご紹介します。

素敵な泰山タイルたち

綿業会館のタイルタペストリー

大大阪時代を象徴する大阪船場の歴史的建造物「綿業会館」。同時期に再現された大阪城天守閣の3倍以上の予算で建てられた綿業会館は、当時の贅の限りを尽くした設えが各所に見られます。

なかでもとりわけ目を引くのは、ジャコビアンスタイルでつくられた談話室。その一角に“タイルタペストリー”と呼ばれるタイル壁面がそびえています。

泰山製陶所でつくられたタイル約1,000枚で施工されているのですが、驚くのは、ここに使われている浮き彫りタイルがわずか5種類しかないということ。釉薬のかけ方や焼き方で変化をつける“窯変”という技法で多彩な表情を見せています。

京都島原 “きんせ旅館”

“きんせ旅館”とは京都の旧花街「島原」にある、推定築年数250年の元揚屋を利用したカフェ&バー。中に入ると木造揚屋建築の外観とは違った“大正ロマン”な雰囲気が漂った内装が迎えてくれます。

飴色の内装と煌びやかなステンドグラスに調和を見せる泰山タイル。きんせ旅館は大正後期から昭和初期の頃、“揚屋”から“旅館”に改装したそうなので、泰山タイルが施工されたのもその時でしょうね。 エントランスやホールだけではなく、トイレや広縁など様々な部位に泰山タイルがふんだんに散りばめられているが魅力的です。

また、きんせ旅館は泰山製陶所のあった京都市南区東九条から歩いて30分ぐらいの立地なので、僕が知っている限りでは泰山タイル発祥の地から一番近い「泰山タイル現存の地」ではないでしょうか?

六甲ヴォーリズ山荘の暖炉間

日本各地に数多くの西洋建築を残した名建築家 “ウィリアム・メレル・ヴォーリズ” 池田泰山が活躍した昭和初期にヴォーリズも多くの建築を手掛けています。ヴォーリズも泰山タイルファンの一人で、他の建築でも使っていたそうです。

六甲山荘は1934年(昭和9年)にヴォーリズが関西学院大学教授の小寺敬一氏の別荘として設計した山荘建築。家族団欒のスペースとしてリビングの一角に設けられた暖炉スペースの床に泰山タイルが使用されています。主張しすぎずに空間に馴染んでいるのがいいですね。

甲子園ホテルのバーラウンジ

1930年(昭和5年)に華々しく開業した、時の一大リゾート「甲子園ホテル」。皇族や国内外のVIPが訪れ、富裕層の人々の社交の場として賑わったこのホテルにも、たくさんの泰山タイルが使われています。

バーラウンジの床面に敷き詰められた泰山タイルは“窯変タイル”と“布目タイル”を中心に構成されていて、そのバリエーションがとても豊かなのが特徴的。

色見本の試し焼きとして使用されたタイルが嵌め込まれていたり、甲子園ホテルが建てられた年の「1930」がモザイク状に組まれていたり、「TAIZAN」と彫られたものがあったり、遊び心が伺えるのが面白いですね。

緑釉の屋根瓦も泰山製陶所製

老舗喫茶店“築地”のファサード

1934年(昭和9年)創業の「築地」は、初代店主が好きだった築地小劇場にちなんで名付けられた、京都四条河原町の老舗喫茶店。名物のウインナー珈琲と共に有名なのが店先を飾る色鮮やかな泰山タイルです。

土間部分は人通りが多いせいか部分的に貼りかえられている箇所もありますが、外壁の腰や窓台に施工されたものは、手入れされていて保存状態もいい感じです。

京都三条の“アンデパンダン”

京都三条通沿いに建つ1928ビル。ビルの地下部にあるアンダーグラウンドなカフェ「アンデパンダン“Independants”」に施工されている腰タイルも、定かではありませんがどうやら泰山タイルの様です。

このビルが毎日新聞社京都支局ビルとして建設されたのが昭和2年(1928年)で、アンデパンダンはおよそ創建当時の姿のままとの事なので、泰山製陶所の最盛期と時代的にはドンピシャです。

廃墟っぽい異空間に妖艶に光る“泰山タイル” 。どんな場所にも似合うやつですね。

任天堂 旧本社ビル

京都は五条通から七条通の高瀬川沿いに広がる、旧花街「五条楽園」。ちょうど、五条楽園のど真ん中あたりに、日本が誇る大企業「任天堂」発祥の地があり、昭和8年に建てられた旧本社家屋が現在も残っています。

道から眺めているだけではタイルの存在には気付かないのですが、建物ファサード部分にある、“福”の文字が刻まれ、幾何学模様で装飾された囲いの内側に、泰山タイルらしきタイルがビッシリと貼りこまれています。

外部に施工されていて、長年の風雨にさらされている為、保存状態はあまり良好ではありませんが、布目の風合いや、昭和初期という建築年から見ても、間違いなく泰山タイルだと思われます。

まとめ

大正から昭和にかけて近代化が進む建築のなかで、一大ブームになった“タイル”という建材と、その人気の立役者とも言える“池田泰山”と彼の作品たち。

残念ながら泰山タイルはもう生産されていません。また、池田泰山や泰山製陶所に関する資料などもあまり多くはない様です。

泰山タイルは昭和初頭からほんの十数年の間だけ「太く短く」その溢れんばかりの魅力を色濃く輝かせた貴重なレア建材です。

それだけに、同時期に才能を開花させた名だたる建築家たちの心を捉え、魅了するものが池田泰山の造る作品にはあったのだと思います。

今回は近代建築好きの僕が今までに出会った昭和の名建材「泰山タイル」について纏めてみましたが、これからもどこかで出会う度にこの記事に付け加えていきたいと思います。

まだまだ泰山ファンとしてはひよっこなので、「ここにも泰山タイルがあるよー!」なんていう情報があれば是非教えて頂ければ嬉しく思います。

では、また!

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