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東京

世田谷「旧小坂家住宅」穏やかな時間が流れる旧邸を訪ねて

投稿日:

S.L
世田谷の昭和レトロな住宅へ


旧小坂家住宅 書斎

しとしとと雨が降り続いた初夏の日、世田谷の「旧小坂家住宅」に訪れた。

国分寺崖線の縁辺部に立つ旧小坂家住宅は、昭和12年から翌年にかけて建てられた、政治家であり実業家の小坂順造の旧別邸だ。同氏は長野県の豪家にルーツを持つエリートで、この別邸の設計施工は清水建設の前身である清水組が手掛けている。

戦後は渋谷の本邸が空襲で焼失したため、この別邸に一家で暮らしていたという。その昔、この周辺には政財界人や著名人の別邸が多く点在していたそうだが、主屋が現存するのは旧小坂家住宅のみだとか。戦時中には日本画家の横山大観も空襲を避けるため、樹林地の中にあった茶室に一時期移り住んでいたという。

同邸の敷地の約半分は斜面地となっていて、湧水も見られ、自然と建物が一体となった空間を形成している。

別邸とはいえ約100坪もある木造和風の建物は、玄関を入ると南に茶の間と居間が広がり、西に離れの書斎、東に女中室や台所、渡り廊下でつながる南東に内倉や二階建ての寝室棟を配し、とても贅沢な間取りとなっている。


旧小坂家住宅 寝室

この家は、屋外から溢れる光と内部の建築意匠が作り出す陰影がとても美しい。部屋毎に趣が異なり、それぞれに趣向を凝らし最高級の材料と技術を駆使しつつも、庭や周囲の自然に溶け込んでいるのがとても印象的な住宅だ。

特に主屋の北西に位置する洋風意匠の「書斎」はとても良い趣だ。書斎としては広めの間取りで暖炉まで設えられている。柱には赤松の面皮柱を用い、天井にも赤松面皮材を使用するなど、和洋折衷のテイストだ。

床はヘリンボーン貼りとし、壁に張られた腰板には鉈目削りの装飾を施す。暖炉上のスペースにはもとは仏像を安置していたようだ。壁は袋張りと呼ばれる、空気の層を持つ黒塗りの壁で構築されている。

主屋から南へ廊下を進むと二階建ての寝室棟がある。「寝室」も洋風の設えられており、程よく上品なシャンデリアが柔らかに室内を照らしている。隣室のサンルームに移ると穏やかな陽光に包まれていた。


旧小坂家住宅 サンルーム

広い邸内を歩きながら、ひとしきり写真を撮らせて貰っている間に、どうやら雨があがったようだ。

静けさの庭園から柔らかな光が差し込む。窓辺に視線をやると、雨に洗われた緑が先ほどより艶やかに色を深めている。往時は窓から富士山を望む景色を楽しめたそうだ。

旧小坂家住宅にはスローな時間が流れ、遠くなった昭和の時代に思いを馳せることが出来る。同邸は平成11年に世田谷区の有形文化財に指定され「瀬田四丁目旧小坂緑地」として一般に公開している。



今回行った場所

旧小坂家住宅

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