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京都

「駒井家住宅」から「GOSPEL」へと歩く京都ヴォーリズ建築散歩

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S.L
京都 北白川へ !

“白川疏水道” は京都東山のふもと、哲学の道から北白川、そして僕の大好きな本屋さん “恵文社” がある一乗寺へと北上する疏水沿いの散歩道。 

春は桜並木が華やかに色づき、秋には楓の木々が紅色に彩る。その傍らにそよそよと疏水がせせらぐという心地よい散歩が楽しめる遊歩道です。

疏水に沿って進むこの道は特に “桜” の印象が強く、咲き誇る数百本の染井吉野や枝垂桜を愛でながら、たくさんの人が歩くという光景が強く頭にあるのですが、人影もまばらな晩秋の白川疏水道もなかなか風情のあるものでした。

疏水道沿いに北白川の遊歩道を歩いてゆくと、背の高さより少し高い生垣の向こうから西洋造りの建築が顔を覗かせる。

駒井家住宅

北白川の閑静な住宅地の一角にしっくりと馴染む様に建つ “駒井家住宅” は、大正・昭和期の動物学者であり「日本のダーウィン」と称された駒井卓 博士の私邸として、1927年(昭和2年)にヴォーリズ建築事務所の設計により建てられたもの。

当建築は日本における西洋建築の父 “W・M・ヴォーリズ” の代表的な住宅建築で、およそ同時期に建てられた現存する作品では、京都鴨川沿いのチャイニーズレストラン “東華菜館” や、現在の “大丸神戸店旧居留地38番館” などが有名です。

ヴォーリズの円熟期に建てられたアメリカン・スパニッシュ様式を基調とした外観は、築後90年以上経つ今も、何故かあまり古さを感じさせない。

玄関を入ると、まずリビングダイニングへと繋がるホールが迎えてくれるのですが、もうここら辺りからヴォーリズの世界観に引きずり込まれていく。

ホールから2階を結ぶ階段の手すりは柔らかい曲線を描き、段差も低めに設計されています。使い手に優しい設計はヴォーリズ建築らしいポイントの一つ。建築当時オリジナルのすりガラスが入った窓から射す西日がホール全体を飴色に染めていました。

1階 リビング

ホールからリビングに入ると、庭園の樹々を望む、穏やかな空間が広がります。ヴォーリズは奇をてらったデザインよりも、住み心地を考えた施主への細やかな配慮を大切にした建築家。 リビングを印象付ける腰掛付きの出窓などにも実用的な工夫がうかがえます。

この住宅のシンボルでもあるアーチ窓の設けられたサンルームには、どこか穏やかでほっこりとした空気が流れておりました。

階段を登って2階へと…

一般的に家を建てる時には、出来るだけ敷地の北側に建物を配置し、陽当たりの良い南側に空間をあけて庭を設ける事が多いのですが、なぜか駒井家住宅は疏水沿いの西側に寄せて母屋を配置し、家自体も東を向く様にして建てられている。

この家が建てられた当時、まだ周りにはほとんど建物もなく、270坪もある広大な敷地なのに何故かなぁ…? なんて、受付で貰ったリーフの建物配置図を眺めていたのですが、東面に天井いっぱいまでの連装窓を設けた2階の主寝室に入ってその理由が納得できた。

2階 主寝室

東の方角に比叡山そして大文字山が一望できるため、建物を西側に寄せ、東に開く様に構えた設計としているんですねー。 あぁ…なるほど、そう言えば、岡崎の無鄰菴もたしか東山を借景にした庭園を造る為に同じ様な設計をしてたなぁ ! なんて妙に腑に落ちた。意外と京都の建築設計では良く使われた手法なのかな?

駒井博士は欧米への留学や研究のために訪れた旅先で、昆虫や動物の小物などを買い求めては家に持ち帰っていたという。そのお土産コレクションは2階の来客用寝室(ゲストルーム)に展示されていて、なんともノスタルジックな雰囲気を醸し出していました。

2階 書斎

往時のまま保存された駒井博士の書斎には造り付けの書棚が設けられ、専門書がびっしりと並べられています。ピンク色のロールスクリーンカーテンを開けると書斎からは疏水分線の流れが見え、春になれば満開の桜が眺められるという。

戦後すぐにアメリカ軍のGHQに接収された歴史を持つ駒井邸。その当時、母屋には米軍兵士の家族が暮らすことになり、同じ敷地内にある約10坪ほどの小さな離れで生活する事を余儀なくされたという駒井夫妻ですが、この大好きな家をこよなく愛し、終生この家で過ごしたそうです。

1998年(平成10年)に、駒井家住宅は昭和の住宅建築として初めて京都市指定有形文化財に指定されています。



GOSPEL “ゴスペル”

駒井家住宅から白川疏水道をゆっくりと下り、哲学の道の一本西を並行して走る鹿ヶ谷通に歩を進めると、程なくして味わいのある趣の洋館が見えてきます。

京都好きには有名な洋館カフェ “GOSPEL” ですが、意外とこの建物がヴォーリズ建築ということは知られていない様です。

ヴォーリズ建築といっても1982年(昭和57年)の建築なので W・M・ヴォーリズの設計ではなく、ヴォーリズ氏の理念を継承し現在も設計活動を行なっている “一粒社ヴォーリズ建築事務所” の手によるもの。

当初は2世帯住宅として建てられた洋館ですが、現在は建物の2階がカフェとして利用されています。 同じ京都のヴォーリズ建築のカフェと言えば烏丸今出川の “バザールカフェ” も知られていますが、個人的にはゴスペルの落ち着いた雰囲気の方が好みかも。

ヴォーリズらしいデザインが施された木製階段はスローな空気が流れる2階へと繋がる。1920年代のアンティーク家具で統一されたクラシックな店内に流れるJAZZの調べが心地よさの演出を手伝っています。

店内にはゆったりとテーブルが配置されているのですが、各々のテーブルの椅子の高さを変えて、視線が合いにくい様に工夫しているといいます。この辺りもヴォーリズから継承された細やかな設計配慮のひとつなのかな。

カフェは建物の2階部分にあるので、窓際のテーブル席からは、東山の山並みと閑静な住宅街の風景をゆっくりと眺めながら珈琲を愉しめる。時折、店内にあるチェコのピアノを使ったサロンコンサートが行われるという。

冬になると店内の暖炉に火が入り、一段と良い雰囲気になると聞きました。観光客が少なくなる寒い季節の東山散策の帰りにまた是非寄ってみたい。

あとがき

琵琶湖疏水の分線は、メインの第一疏水と同時期の明治20年ごろに開削されました。インクラインのある蹴上から南禅寺水路閣を通って、哲学の道を北上し、銀閣寺橋のあたりで流れを西に向ける。

ちょうどこの辺りに日本画家 橋本関雪が住んだ大邸宅 白沙村荘がありますが、この疏水道界隈が桜の名所となったのは、橋本関雪夫妻が植えた “関雪桜” がきっかけだといわれています。

疏水はしばらく今出川通に沿って走ると、ゆるやかに曲がって、再び北白川の静かな住宅街のなかを北上してゆく。

今回、白川疏水沿いに歩いた “駒井家住宅” から “ゴスペル” までは20分ぐらい。四季の景観とヴォーリズ建築を楽しみながら散策するにはちょうど良いお散歩コースだと思います。

※ 駒井家住宅は 毎週金曜日と土曜日に一般公開が行われていますが、夏季と冬季は休館になっている様なので、開館日等の詳細は駒井家住宅の公式ホームページをご覧になって下さい。



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今回行った場所

駒井家住宅 公式ホームページ

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