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大洲「臥龍山荘」肱川を望む、数寄屋建築の傑作を訪ねて

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S.L
大洲、臥龍山荘へ!


臥龍院「壱是いっしの間」

愛媛県大洲城の総鎮守、神楽山を背景に控え、大洲市随一の景勝地と謳われた肱川ひじかわの 臥龍淵 を望む 臥龍山荘がりゅうさんそう は、明治30年頃から構想を含め、十年の年月をかけて普請された山荘だ。

臥龍山荘の構想を描いた施主の 河内寅次郎こうちとらじろう は、大洲市出身の貿易商で木蝋の輸出事業で成功を収めた人物である。

この地は もともと藤堂高虎の重臣である戦国武将の渡辺勘兵衛が邸宅を築造したと言い伝わる。臥龍山荘の築造にあたっては桂離宮や修学院離宮などを参考にして設計されたという。


不老庵

約3,000坪の敷地に建つ 臥龍山荘 は、山水画をそのまま実現したような懸崖造りの「不老庵」 。茅葺きのゆったりとした寄棟屋根をもつ「臥龍院」 。そして後世築の「知止庵」及び、美しい庭園で構成されている。

「不老庵」絶景を愉しむ屋形舟に見立てて

肱川ひじかわ沿いに歩みを進めると、対岸の景色に一瞬足が止まる。山の中腹に茶室のような小さな建物が浮かんでいるように見える。この茶室は石垣の上に立ち、その崖下には肱川が流れている。この茶室が臥龍山荘のシンボルとも言える「不老庵」だ。

建物を支える柱脚には、いかにも地中から生え出てきたと言わんばかりの丸太材が使われ、自然との同化を意識して造られた事が見てとれる。

不老庵は肱川に浮かぶ屋形舟に見立てて建てられている。縁側にそっと座り向こう岸に連なる山々を眺めていると、爽やかな風が頬を撫でながら颯颯と通り過ぎてゆく。

こぢんまりとした室内の天井は、曲面に造作された籐網代で表現し、それになぞらえて落とし掛けの竹も緩やかに曲線を描いている。

この建物は山水の世界をそのまま具現した数寄屋の理想ともいえる佇まいではないだろうか。実際、臥龍山荘は「四国地方における近代の数寄屋建築の優品として高い価値を有している」ことが高く評価されている。

「庭園」細部に宿る施主の美意識

臥龍山荘は主屋である 臥龍院 から奥に細く狭まってゆく敷地で、最奥部に建つ 不老庵 までの空間が園路を中心に庭園として設えられている。

不老庵から臥龍院までへと続く露地的な空間に歩みを進めると、周辺の樹木による見え隠れによって景が単調にならず、眼下には、たおやかに流れる表情豊かな肱川や、 周囲の雄大な自然を原寸大で主景に取り込むことによって、細長い敷地を感じさせず、広がりのある庭園空間を構成している。

庭園には様々な意匠が凝らされていて興味が尽きない。 各所にある石積は、 切石や自然石など技巧的かつ意匠的であり、技術の高さをうかがわせながら、自生の木を残し石積の間から生えるようにし、手水鉢などの石造物を添景にするなど、石積による圧迫感をうまく緩和している。

また、飛石は四角形の礎石や、円形の臼石や伽藍石、さらに延段には三角形の板石も使われて、庭園での歩みが楽しくなるような遊び心が感じられる。植栽ではサルスベリやコウヨウザンなど、近代の作庭に共通する樹木も見られる。

貿易商だった施主の河内寅次郎は、常居の神戸から臥龍山荘の作庭に関して、細かな指示を送ったとされることから、建築もさることながら、施主自身の美意識と工夫が随所に垣間見られる庭園となっている。



「臥龍院」数寄屋建築の傑作

臥龍院は四年の工期をかけて造られた、河内寅次郎がその情熱を最もそそいだ建物だ。

数寄屋建築は日本の建築様式の中でも特に風流で繊細な美しさを持つもの。臥龍院の普請にあたって、河内寅次郎は京都から名大工や茶室建築家を呼び寄せ、全国各地より吟味した銘木を使用し、加えて名工の卓越した技術が相まって形を成していった。

随所にわたって豊かな意匠が形になっているのは、大洲には京都のような建築の制約がなかったからだと言われている。侘び寂びの表現や季節をテーマにした装飾、隣の部屋の光を取り入れた造作など、それぞれの「間」に匠たちの湧き上がるアイデアと技が光っている。


清吹の間

清吹せいすいの間」は水をあしらった欄間彫刻が四季を彩る。春の清流と筏流し夏の水紋など、水にちなんだ透かし彫りによって涼しさを演出している。部屋は夏向きに造られており、北向きで風通しがよく、天井は他よりも高く涼しさを感じさせる細工が随所に見られる。

霞月かげつの間」は、丸窓の奥の仏間に蝋燭が灯されると月明かりのように浮かび上がる。


霞月の間

違い棚を霞に見たて、月と霞で霞月の間だ。右手の襖はあえて鼠色で薄暮を表現し、引手にはコウモリの細工が。さらに壁の一部を塗り残して荒れた農家の風情を表現するなど、侘び寂びの風情が散りばめられている。

類稀なる景観を存分に楽しむため、施主は財と時間を惜しげもなく投入し、職人は腕を振るって建築と庭園をつくり上げた。

施主と名工たちの往時の思いを再現すべく持管理体制が整えられ、その文化的価値を多くの人に伝える努力が続けられている。

今回行った場所

臥龍山荘 公式ホームページ

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