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京都

京都最大の旧色街「五条楽園」の遊郭建築と下町レトロ散歩路

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S.L
五条大橋 !

京都の象徴として多くの人々に愛され、親しまれている 鴨川

下京区と東山区の境の鴨川に架かる “五条大橋” は牛若丸と弁慶が初めて出会った場所としても有名ですよね。平安時代の五条大橋は二筋上流の松原通にあたり、当時の五条橋は今の松原橋の位置っていうのが通説だそうです。

五条大橋のすぐ近くに、かつて 五条楽園ごじょうらくえん と呼ばれたまちがあったのをご存知でしょうか?

今はもう無き五条楽園跡は五条大橋の南方、鴨川の傍を静かに流れる 高瀬川たかせがわ 沿いに広がります。

透き通った水が清らかに流れる高瀬川を眺めながら歩く、木屋町きやまち通りの散歩は「あぁ、京都にやって来たなー!」なんて気分にさせてくれますよね。

五条楽園を流れる高瀬川

高瀬川は野鳥も多い河川で、僕が五条楽園界隈を歩いた麗らかな陽気の日も、小さなヒヨドリたちが川面を追いかけっこしとりました。

五条通から七条通までを高瀬川を中心にして広がる五条楽園の町並みは「楽園」のイメージとは程遠い、いわゆる超下町風情あふれる景観。

細い路地を抜けると、お馴染みの軒下の赤バケツが並んだ民家が軒を並べ、路地裏の民家のトタン壁に描かれた落書きや、懐かしいレトロな銭湯なんかもちらほら。

五条楽園の街並み

今回は五条通から七条通までの 菊浜地区 と呼ばれるノスタルジックな京の下町エリアを、往時の遊郭建築を愛でながら散歩したいと思います。

京都最大の旧色街を歩く

五条楽園とは?

五条楽園とは、江戸後期から明治期にかけて 七条新地 の名で繁栄した京都最大の遊廓地帯のこと。もともとは、五条新地、六条新地、七条新地という隣接する複数の“遊廓”が大正時代に合併して出来た花街です。

京都の旧花街と言えば、日本三大遊郭として有名な「島原」がよく知られていますが、島原は主に武家や富裕層を相手にした“高級花街”、かたや「七条新地」は一般庶民の花街でした。

(左)高瀬川に住む女(右)七条新地の妓楼

江戸後期・明治期には京都最大の遊廓として繁栄し、大正時代には三階建ての妓楼が立ち並ぶまでとなった七条新地。大正初期には遊客数において祇園を大きく上回ったといいます。

お茶屋や、置屋、歌舞練場かぶれんじょうなどがあり、祇園や島原などの花街とも似ていますが、芸妓より娼妓しょうぎが大多数を占めていた様なので “色街” という呼び方の方がしっくりくるのかも分かりませんね。

「五條會館歌舞練場」築百年を超える木造三階建建築

島原は幕藩体制の崩壊と共に急速に衰退していきましたが、庶民の色街であった七条新地の繁栄はその後も続き、戦後もいわゆる “赤線地帯” として生き残りました。

1958年(昭和33年)の売春防止法施行により遊廓としての幕を一旦閉じた後、「五条楽園」と名を変え、芸妓を前に打ち出した花街として2010年まで営業をしていた様です。

赤線とは…

日本で、1957年(昭和32年)の売春防止法施行以前に公認で売春が行われていた地域の俗称。非公認で売春が行われていた地域の俗称は「青線」である。戦前から警察では、遊郭などの風俗営業が認められる地域を、地図に赤線で囲んで表示しており、これが赤線の語源であるという。 引用:wikipedia

ちらほら残る“色街遺構”

最盛期には150軒ものお茶屋や置屋があり、つい近年まで現役の色街であった五条楽園。現在は静かな京の下町ですが独特の雰囲気のある街です。

当時の妓楼ぎろう建築とカフェー建築が今もちらほら残り、古建築好きなら建物を眺めて歩くだけでも楽しめます。しかしここ数年、それらの建築群も老朽化を理由に解体を余儀なくされ、少しづつ姿を消しつつあります。

五条会館(五條會館歌舞練場)

五条楽園のランドマークとも言える木造三階建て建築 “五条会館” 。 大正6年築の木造大建築は、花街当時、五條會館歌舞練場ごじょうかいかんかぶれんじょうと呼ばれていました。

歌舞練場とは芸妓や舞妓が客前で披露する歌舞音曲を稽古したり、磨いた芸を公の場で発表したりする演舞場の事。 この旧花街にも歌舞練場があるという事は、娼妓だけの遊郭ではなかったと言えますね。

五条会館「演舞場」

歌舞練場としての役目を終えて、長年の間、使用されずに老朽化が目立ち始めた五条会館ですが、この建築を入札で買い取った大手リノベーション会社の手によって、再生の道を歩み始めています。

蘇れ ! 京都旧花街のシンボル「五条会館」 築100年の大歌舞練場

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旧三友楼

惜しまれながら2021年末に解体されてしまった大店「旧三友楼」。

高瀬川沿いに建つ、“本家三友” は地域を代表する最大の元お茶屋でした。往時の唐破風の上には屋号が刻まれた軒瓦が鎮座していました。

旧三友楼

建物を眺めながら歩いていると、伝統的な “唐破風からはふ” を持った遊廓建築が、民家にまじっていくつも建っています。

反曲カーブが印象的な唐破風は「唐」と付くことから中国から入ってきた建築意匠っぽい印象ですが、実は日本古来の建築様式で、鎌倉時代に生まれ安土桃山時代に最も人気にあった様式です。

「破風」の形式としては、最も格が高いとされて社寺建築や城郭に主に使われてきました。

京都には唐破風を持った昔ながらのお風呂屋さんが今でも幾つか残っています。柔らかい曲線と銅板の緑青が、なんとなく花街の色っぽさを演出してる様な気もしますね。

会席料理 讃

本家三友から高瀬川を挟んでお向かいに建つお茶屋建築。ずいぶん長く空き家だったのですが、外観はお茶屋の趣きをそのままに、内部をフルリノベーションした会席料理屋さんが2018年にオープンしました。 江戸時代の骨董品などの器で御食事が楽しめるのだとか。

このような形で古い建築が有効に活用されるのは嬉しいですね。

宿や 平岩

こちらは昭和33年の売春防止法施行後、妓楼から旅館へと移行した建築です。2016年に「宿や平岩」としてリニューアルオープンした後、一時はレンタルオフィスになっていましたが、現在はまた宿屋として営業しておられます。

また、五条楽園には元遊廓建築を利用した楽しげなショップも、ちらほらと見受けられます。

五条モール

築80年超の元お茶屋さんを利用した「五条モール」。小さなワークショップや喫茶店・レンタルスペース・アトリエなどが入ったショッピングモールです。曜日限定のオープンですが、とても個性豊かなお店たちが入っておられます。

五条モール

外装と共に内装も古めかしさがあって、なんともノスタルジックな空間になっとります。

五條製作所

いわゆる カフェー建築 を利用した「五條製作所」。 カフェじゃなくてカフェーね。

カフェー建築とは、戦後に生まれた特殊喫茶のことで、女給サービスを売りにしていたお店。外観の多くはステンドガラスやタイルをファサードに用いて、いわゆるカフェの様な洒落た雰囲気を演出しているのが特徴的です。五条楽園には和風の妓楼建築と共に、カフェー建築もちらほら残っています。

五條製作所はそんなカフェー建築のなかに幾つかのお店が入っていて、こちらの内装もほぼ往時の面影をそのまま残しています。

五條製作所

五條製作所内にある “モミポン” なる手作りのポン酢屋さんが結構有名な様です。せっかくなので一本お土産に買って帰りました。本物にこだわって作っておられるだけあって、旨味と辛味がちょうどいい感じで僕的にはお気に入りの味でした。

UNKNOWN KYOTO

UNKNOWN KYOTOアンノウン キョウト」 は、旧五条楽園に並んで建つ二棟のカフェー建築をリノベーションして出来た宿泊複合施設。泊まる(ホステル)・食べる(レストラン)・働く(コワーキングスペース)を併設した店内は、旧五条楽園の色街文化の香りが濃厚に感じられます。

UNKNOWN KYOTO

「極力、既存を残す」をコンセプトにリノベーションされたUNKNOWN KYOTOには、元遊郭を彷彿させるディテールがたくさん遺っています。

築100年を超える木造建築ですが建物の歪みなどもなく、ゲストルームの数々は上手く新旧を融合させて、過ごしやすさと清潔さを感じる部屋ばかりです。遊郭の雰囲気を味わいながら京都を楽しみたい!って方にはぴったりの宿だと思います。

「UNKNOWN KYOTO」五条楽園の生きた遊郭建築に泊まる!

京都、旧五条楽園 。 五条大橋の南側、鴨川と寄り添う様に流れ ...

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五条楽園のカフェー建築たち

サウナの梅湯

そして、明治時代から続く高瀬川沿いの銭湯「サウナの梅湯」。京都の下町文化を守るため、若き20代の青年が閉業した銭湯を復活させたという、京都では有名な銭湯です。せっかくなので昼間っから 、ひとっ風呂入ってまいりました。いやー何年ぶりかな、こういう町なかの大衆浴場に入るの。

サウナの梅湯

全国600軒以上の銭湯を巡った、大の銭湯好きの青年が経営する “老舗銭湯” というだけあって、どこか懐かしい趣と居心地の良さを感じる銭湯でした。

丸福樓

日本が世界に誇る大企業「任天堂」。現在も本社は京都市の南区にありますが、創業者の山内房治郎氏が1889年(明治22年)に起業したのが、ちょうど五条楽園の南側、鍵屋町あたりになります。

創業当時はこの地でかるたや花札、トランプなどの製造を行っていたそうです。内部はアール・デコを基調としたとびきり贅沢な空間となっています。

昭和8年に建てられた旧任天堂本社屋は南北に長く、「事務所棟」「住居棟」「倉庫棟」の三棟の建物からなる。これに「新築棟」を融合させて2022年に完成したのがホテル「丸福樓」です。

「丸福樓」は7つのスイートを含む全18室で構成されています。昭和期に竣工した当時の建築様式や内装はできる限り残したという既存棟には、約90年前の趣が随所に美しく残されており、近代建築ファンには垂涎もののエッセンスがあちこちに散りばめられています。

「丸福樓」任天堂旧本社社屋の面影を遺す歴史的建造物ホテル!

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あとがき

江戸時代に高瀬川の水運と共に発展し、長きにわたって歓楽街としての賑わいを見せた、京都の一大花街。

観光地ではないので、今は人通りも少ない町ですが、貴重な建築遺構がなんとか有効活用されて、また当時の様な賑わいを見せる日が来るのを密かに楽しみにしています。

三条、四条から、五条、七条と“高瀬川”を下って、テクテク歩けば、またいつもと違った京都の顔が見えてきますよ。

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