全国のミドルエイジの皆さま、こんにちは。
あっという間に過ぎていった20代30代から、40代になって体力や気力の衰えを感じ始めた人も多いはず。
僕もそんな一人で、最近になってようやく “健康” というものについて、ちゃんと考える様になりました。
今回は、住まいに携わる建築屋の目線から、家族のため、親のため、自分のために、 僕たちが考えておかないといけない「これからの住まい」についてのお話しをしたいと思います。
とくにこれからお家を建てる人。リフォームを考えてる人や、親との二世帯住居を考えてる人には、是非読んで頂きたい内容です。
なぜ、いま日本に“健康住宅” が必要なのか?
平均寿命と健康寿命
人生80年。なんとなく人生の折り返し地点?とかって思ってた、わたくし。
日本の平均寿命は男性81.6歳、女性87.7歳と、世界第1位の長寿大国。(※2020年厚生労働省調べ)
確かに平均寿命から考えると、40代は人生の半分が過ぎたってイメージですが、 “健康寿命” なるものから考えると話はまた別なんですよね。
直近の2019年に公表されている日本の健康寿命は男性72.6歳、女性75.3歳。なんと 平均寿命より男性9年、女性12年も早い んですよ!
健康寿命とは?
健康寿命 とは読んで字のごとく 「ヒトが心身ともに健康で自立して活動し生活できる期間」 の事で、簡単に言うと、介護なしで生活できる期間 ですね。ヒトがどれだけ健康で豊かに生きられるかを表す指標となっています。
僕たちの世代は 「生きるリスク」 が非常に高い世代とも言われています。年々、発達する医療技術、僕らが高齢世代になる頃には、更にそれらが進歩を遂げて 「なかなか死なない」 という事です。
健康寿命はとうに尽きているのに、なかなか死なない・・・ 考えただけで、恐ろしいですよね。
長寿大国の日本 は、先進主要国のなかで健康寿命と平均寿命の差異、いわゆる 「要介護期間」が長い国 としても知られています。
国名 | 平均寿命 | 健康寿命 | 介護必要期間 |
日本♂男 | 82歳 | 73歳 | 9年 |
日本♀女 | 88歳 | 75歳 | 13年 |
アメリカ | 77歳 | 69歳 | 8年 |
イギリス | 78歳 | 70歳 | 8年 |
ドイツ | 79歳 | 72歳 | 7年 |
フランス | 80歳 | 72歳 | 8年 |
中国 | 71歳 | 64歳 | 7年 |
イタリア | 79歳 | 72歳 | 7年 |
スペイン | 79歳 | 72歳 | 7年 |
ノルウェー | 79歳 | 72歳 | 7年 |
介護期間が長いと家計も国も大変 !
何が大変かって言うと「医療費」を始めとした社会保障費が、現在どんどん増えてるから。
厚生労働省から直近2019年度の医療費が、44.3兆円と発表されました。国の予算が約100兆円なのに、44兆円も医療に使ってたら財政はパンクしちゃうでしょ。
44兆円のうち国や地方が負担してるのは14兆だけで、残りは企業や個人の保険料と患者が負担しています。
2025年には54兆円にまで増える見通しで、更に少子高齢化がどんどん進んでいくと、税収も少なくなって国も個人も大変な事になる訳です。
高齢化社会で、家計と財政を圧迫していく「医療費」を削減するために、国は “健康の促進” に注力しています。
健康には食生活や運動なども重要な要素ではありますが、昨今、生活の大半を過ごす「住まい」と「健康」の密接な関係 が明らかになってきたのです。
なぜ、いま日本に“省エネ住宅” が必要なのか?
日本をとりまくエネルギー問題!
社会保障費問題と共に、これからの日本の大きな課題となっているのが「エネルギー問題」。
現在の日本は・・・
- エネルギー自給率の低下
- CO₂排出量の増加
- 電力コストの上昇
などの課題に直面しています。 下のグラフは主要国の一次エネルギー自給率を比較したもの です。
東日本大震災後、原子力発電所の停止もあり、2018年度には、 日本のエネルギー自給率は11.8% になりました。これは、他の先進諸国に比較して 極めて低い水準 なんです。
また、日本の消費エネルギーの多くが、LNG(天然ガス)・石油・石炭などの “化石燃料” を原料とし、そのほとんどを海外からの輸入に頼っています。
一次エネルギー供給ベースで 海外依存度は85.5% !
しかも日本はこうした化石燃料の80%以上を 「中東地域」に依存 しています。
これも、とてつもない数字ですよね。しかもこの全量がペルシャ湾の奥に密集する、油田やガス田から産油国に頼り、日本までの1万2千キロを20日間かけて、年間延べ800隻の大型タンカーで運んでいます。
ご存知のように、中東地域の国際情勢は複雑で、 戦争やテロなどの地政学的リスクが非常に高く、安定的に供給が行われるかという心配はもちろん、価格が不安定な傾向にあるという問題点もあります。
いま中東産油国からの化石燃料の供給が途絶えたら、どえらい衝撃と壊滅的な状況が日本を襲うでしょうね・・
更に、2015年に地球温暖化対策の国際枠組みとして発効された 「パリ協定」 。CO₂排出量カットが大きな日本の課題。
東日本大震災以降CO₂排出量が増えてるのに、2030年には26%カット。30年後には85%カットが目標です。すなわち、 CO₂を排出する化石燃料の消費を減らさないといけない のです。
「海外依存のエネルギー問題」 と 「CO₂を排出する化石燃料の消費削減」 。ダブルの背景があって「省エネ」が、これからの日本の大きなテーマなんですね。
しかし、実際、日本のエネルギー消費は、工場などの産業用は減少しているものの、商店や家庭などの民生部門と、自動車などの運輸部門での増加が大きいため、全体として増加しているんです。
だから、今、日本は国策として “住宅の省エネ化” を推進している訳です。
“健康”によい住まいとは?
住宅の断熱性能と健康との深い関係
“断熱” とはその名の通り 「外部との熱の出入りを断つ」 こと。家で言うと「冬は寒くなく、夏は暑くない」のが理想的です。
最近になって、 家の断熱性能が 「住む人の健康に大きく関わっている」 という研究結果が次々と発表されています。特に、冬季の家庭内での低温が健康に及ぼす影響が問題視されています。
冬の低温が原因の死者は、夏の熱中症の180倍!?
毎年、夏になると “熱中症” で病院に搬送された人が取り上げられて、注意喚起するっていうニュースをよく目にしますよね。
熱中症による死亡者数は、1994年以降、年平均663人というデータがあります。これは、気候変動に伴う夏季の気温の上昇や、熱中症リスクの高い高齢者人口の増加に関連しているとみられています。
では、これに対して冬はどうでしょうか?
日本では寒さに起因する死亡率が他国よりも高くて、国際的な医療専門家による調査結果では、 年間の死亡者110万人のうち12万人が冬季の低温に起因して亡くなっている と報告がありました。
なんと、熱中症の180倍という数字になります!
そう言われてみると、たしかに身内や知人でも、冬にお亡くなりにならる高齢の方が多い様な気がしますよね。
人が一年のなかでどの時期に、最も多く亡くなったかを調べたデータでは、一番古い100年前の明治時代の記録では夏の8月が最も多く、それ以降は徐々に夏が少なくなって、逆に冬の死亡者が増え、 現在では圧倒的に冬の死亡者が多い というデータがあります。
室内低温は万病のもと
健康に対する寒さの影響は大きく、特に 室内の低温は “万病のもと” と言われています。
急激な温度変化で体調が急変する「ヒートショック」。ヒートショックが引き金になって起こる脳梗塞や心臓発作。それ以外にも様々な病状によって亡くなる人は冬季に増加します。
冬場の室温18℃未満の家に住む人は、そうでない人より6〜7倍も高血圧になりやすいという調査結果がでています。また、高血圧の原因とされる加齢や肥満、喫煙、塩分摂取よりも室温が低い方が高血圧になる確率が高くなります。
逆に室温が高いとどうなる?
近畿大学の岩前教授が、断熱効果の低い家から高断熱の暖かい家に引っ越しをした約2万4000人を調査した結果、あきらかに健康が改善するというデータが取れました。
気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎の症状が改善しています。 さらに、首都大学東京の星名誉教授は、室温が高くなると血圧が安定するので心疾患のリスクが減少するといいます。
また、部屋が暖いので夜間の頻尿が減少、家のなかで自然に動く量が増えるので筋肉が衰えなくなるということです。
日本は断熱の後進国
では、なぜそんなに “寒い家は危険” なのに、日本の家は寒いのでしょうか?
僕の大好きな歴史的建造物でも、冬に見学してると「外より寒いんじゃね ?」って思う事もしばしば。どうやら、それは古くから伝わる日本の家づくりの考え方と、日本人の気質にあるようです。
“家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比(ころ)わろき住居(すまひ)は、堪へ難き事なり”
「徒然草」の一節ですね。簡単に言うと “家は夏の暑さの事を考えて工夫せよ。冬はいかようにもなる” という意味なんですが、前述したように、明治以前の夏に死亡者が多かった日本では正解ですが、今じゃちょっと当てはまらないんですね。
そして、冬は寒いのが当たり前、寒い冬はぐっと堪えて耐え忍ぶという、日本人の美徳的なものも影響しているようですね。
最近ではあまり見かけなくなりましたが、僕らが幼少の頃には「子供は風の子、元気な子」を地でいった、冬でも半袖短パンな友達が何人かは居ましたよね?
日本の室温は法律で守られていない
日本での家の建て替えや、リフォーム動機の多くが「寒さ」と「暑さ」の改善を理由にしています。実際に僕も仕事でお客様からよく聞く建築動機です。
それなのに、建築業界全体の風潮として “断熱” という事にあまり関心が向かないのは何故でしょうか?
これは世界的に見ても稀な事で、欧米の多くの国々では、冬の期間の室内を暖かくすることを推奨しています。
イギリスでは過度な寒さは 基本的人権の侵害 と考え、冬季の室温は21℃を推奨し、18℃を最低室温として設定。16℃以下は「呼吸器疾患への抵抗力低下」などと規定し、下回ると家主に改修を命じることもあるそうです。
現在、日本にはそんな規制はありません。
そして残念なことに、住宅に携わる人間でも「断熱の重要性」をしっかりと認識していて、ユーザーに正しく伝えれる人が多くないのが現実なのです。
日本の家で冬の18℃以下って、少なくないと思いませんか? 皆さんのお家やご実家はどうでしょうか?
1980年までは無断熱の家も多い
諸外国では法律や条例のおかげで、特に住む人が勉強しなくても、暖かい家に住む事ができます。しかし、日本においては、ようやく2025年に「住宅の省エネ基準の義務化」が設定されるというのが現状です。
日本でも過去3回にわたって、ちょっとずつ、断熱基準が改正されてはいるものの、法的義務はなかった為、無断熱の家も少なくありません。
実際に僕は仕事上、既存住宅の屋根裏や床下に入る事もありますが、贅沢な設えの住宅でも、陳腐な断熱材が申し訳程度にしか入っていなかったり、築年数によっては全く入っていないなんて事もよくあります。
冬場に古い木造の家の中に居てたら、底冷えするでしょ。あれは、無断熱だからです。
本当に“省エネ”な住まいとは?
未来の住宅標準基準 “ZEH”とは?
住宅展示場に行くと、どこのハウスメーカーにもデカデカと謳われている ZEH(ゼッチ)の文言。
最近、経産省が推奨している「ゼロ・エネルギー・ハウス」の頭文字を取ったものです。
エアコンや給湯器、暖房器具などが消費するエネルギーを出来るだけ減らして、必要なエネルギーを太陽光発電などで作ってまかない、住宅の年間収支をゼロ以下にする住宅の事です。
ZEH住宅を国が推奨する理由は、前述した「日本のエネルギー問題」があるからです。
快適なZEH住宅とは?
しかし、この経産省のZEHが求める「住宅の基本性能」は必ずしも高いという訳ではない様です。
エネルギーの消費を減らすには、断熱性や気密性などの住宅の基本性能を高めるより、太陽光発電パネルを屋根に乗っけて、エアコンや給湯器をエネルギー効率の高い機種にする方が手っ取り早くて、経産省ZEHはこちらでもいいコトになっています。
それよりも、しっかりとした断熱施工をして家全体の性能をあげる方が、ランニングコストを考えても、よっぽど省エネなんですけどね。
要するに“省エネ“にも“健康”にも見えない部分が大切ってコト
住宅建築の仕事をしていて、お客様から新しい住まいについてのご要望をお聞きすると・・・
「キッチンはアイランド型で !」「お風呂は絶対大きい方がいい !」「床は無垢のフローリングで !」「収納を充実させて !」という要望が圧倒的に多くて、「バリアフリー」や「寒さ暑さ対策」のご要望は意外と優先順位が低め。
キッチンやお風呂にウン百万のお金を注ぎこむお客様はいても、断熱や気密といった基本性能のスペックアップに予算を割くユーザーさんはほとんど居ません。
こちらが断熱の重要性を伝えても、いまいち反応が鈍かったりします。
出来上がってからでは見えない部分 で、設備機器の様に交換の出来ない、床下や天井裏に壁のなか。あまり気にしない窓やガラスの性能って、長い目で見れば住まいにとって一番重要な部分なんです。
まとめ
これまでに、戸建て、マンションの断熱リフォームを行ったり、高気密・高断熱な住宅造りに携わりましたが、基本性能が高い家って、こんなにも快適なの?っていうぐらい、快適です。
実際に住んでいるお客様も仰るので間違いありません。特に冬が暖かいというのは、快適なうえにガス代や電気代も安くつくし本当に良かったと、口々に言われます。
僕も自宅の築古マンションをリノベーションした時には、デザインやインテリアにもこだわりましたが、見えない部分や窓にも手を入れて基本性能のスペックもあげました。
真冬でも昼間は暖房も要らないし、特に北側の居室は随分暖かくなり、カビの原因だった結露もほとんど出なくなりました。
住宅はとっても高いお買い物。「見た目」ももちろん大事ですが、「見えないところ」はもっと大事です。
これからお家を建てる人、リフォームする人は、無知な住宅営業マンや、古い考えの工務店さんの言う事を鵜呑みにせずに、ちょっとだけでもいいので、 断熱・気密・換気といった「住宅の基本性能」 についてのお勉強をされることをオススメします。
では、また!
参考資料 「あたらしい家づくりの教科書」新建新聞社
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