建築に携わる仕事をしている僕の趣味は建築写真を撮ること。
なかでも、大好きな歴史的建造物や趣のあるレトロ建築に訪れて、写真という限られた四角い枠内に、それらが持つ空気感や佇まいを収めていくのが何よりも楽しい。
THE SODOH HIGASHIYAMA KYOTO(AF-S NIKKOR 20mm f1.8G ED)
などと、いっぱしの事を言っても、いかんせん僕は素人のカメラマン。写真やカメラについての知識は、カメラを弄り倒したり、仕事でご一緒させて貰ったプロカメラマンの撮影テクを見よう見まねして身に付けたものなので、自信を持って「こういう風に撮るのが正解 !」なんて、大それた事は決して言えませんが…
ただ、こうして拙い写真でもWEB公開していると、写真に関する質問やコメントをちょくちょく頂く様になりました。
今回は、僕が仕事の一環でインテリア写真を撮ったり、休日にカメラを持って建築写真を撮りに行ったりする時に、なんとなく意識している事や、室内撮影時に使用するレンズについて記事にしてみました。
一眼レフカメラでの撮影を前提にして書いていますが、ミラーレスやコンデジで撮る時も基本的には同じことが言えるんじゃないかな、とも思います。同じ趣味を持つ方やインテリア写真を素敵に撮りたい!と思っている方の参考になれば幸いです。Instagramにも作例あります。
① 水平・垂直は “基本のき”
自由学園明日館 講堂(AF-S NIKKOR 20mm f1.8G ED)
室内の建築写真を撮る上で、必ず気を付けたいのが “水平” と “垂直” 。
水平ラインが斜めになっていたり、垂直ラインがハの字や 逆ハの字になっているだけで、一気に写真が素人っぽくなってしまいます。
まぁ、素人だから楽しけりゃいいのですが、どうせならシュッとした写真を撮りたいですよね。
撮影条件が許すなら “三脚” をしっかり立てて “水準器” を使って水平垂直を取りましょう。一眼レフカメラの中級機以上には、カメラ本体に水準器が内蔵されているのでそちらを使用します。
手持ち撮影でもタテのライン(垂直)を意識するだけでずいぶん写真が変わります。 一眼レフでもミラーレスでも、ファインダー内や背面液晶モニターに “方眼” を出せるモードが付いているので、建築写真を撮る時には表示させておけば非常に便利です。
水平垂直をめっちゃ気にして撮った写真
② 出来る限り自然光で撮る
東華菜館(AF-S NIKKOR 14-24mm f2.8G ED)
自分で撮影シュチュエーションをコントロール出来る屋内撮影であれば、極力、照明は消して “自然光” だけで撮影 します。理由は 最も自然な雰囲気の写真が撮れる から。
昔のインテリアカメラマンは、部屋の隅々まで明るく綺麗に写すのがミッションで、ストロボをバンバン使って撮っておられましたが、最近のインテリア雑誌などを見ていても自然光だけで撮っているものが多く、あえて窓際の白とびのハイライトもアクセントにしながら、自然光のフワッとした柔らかさを巧く使った写真を良く見かけます。
照明を全部付けてギラギラと明るくして撮った室内写真も悪くはないのですが、窓から入ってくる自然光だけで撮った写真の雰囲気の方が柔らかい自然な印象になります。
撮影時間に余裕があれば、照明を部分的に付けたり、消したり、調光しながら撮り比べてみるといいでしょう。照明ひとつで随分と写真の印象が変わったりします。
ちなみにカメラに内蔵されているフラッシュは不自然な影が写り込むので使用しません。基本は “三脚” を立ててシャッタースピードで露出を稼ぐようにします。薄暗い室内でも、 シャッタースピードを遅くすれば、意外なほど明るく撮る事が出来ます。
但し、手持ち撮影の場合はシャッタースピードが遅いとブレてしま
自然光だけで撮った写真
③ 広角レンズは必須。でも頼り過ぎたくない
神戸塩屋「ジェームス邸」(AF-S NIKKOR 14-24mm f2.8G ED)
建築写真や屋内のインテリア写真を撮るうえで欠かせないのが、やはり 広角レンズ 。 初めて広角レンズを付けてファインダーを覗いた時の「うぉーー ! スゲー入る !!」っていう驚きは今でもよく覚えています。
部屋の端から端まで、きっちりと収める事が出来る便利なレンズ。建築物の外観を撮る時は、無意識に広角レンズを付けていてる事が多いかな。建物の奥行きとか壮大な感じを描写するのには欠かせないレンズです。
僕が使っている広角レンズは、フルサイズ機種で “14-24mm” APS-C機種で “10−20mm” の画角の広角ズームレンズ。 ワイド端(一番広角側)で撮ると、どうしても ※歪曲収差 が目立つので、なるべくワイド端では撮らない様に意識しています。
※歪曲収差…垂直線が樽型や逆樽型に歪んで見える現象。
ちなみに、広角レンズだけではなく “ズームレンズ” (寄ったり引いたり出来るレンズ)は 一番 広角側と一番 ズーム側で歪みが出やすくなっている 事が多い様です。
プロの写真家さんは、歪みの出やすいズームレンズを建築写真に使うことを好まない様に思います。 歪曲収差の出にくい超広角の単焦点レンズや、被写体の傾きを補正して撮影できるシフトレンズを使っておられます。
しかし、くっそ高いんですよね、そこら辺りのレンズって。
デジタル写真ってのはそんな高価な特殊レンズを使わなくても、画像編集ソフトなどで後から簡単に傾きや歪曲収差の補正が出来ます。でもなるべく撮影時に抑えておきたいですね。
広角レンズは端から端まで、きっちりと撮れてサイコーなのですが、どうしても 説明的な写真 (記念写真的 ? な感じ)になりがち。 それはそれで良いのですが、若干、面白味に欠けるので僕は室内の写真を撮る時には必要以上に広角レンズは多用しない様にしています。
限りある見学時間での室内空間撮影では、広角レンズを使うのは最初に数枚、部屋の全景を撮るだけにしています。
広角レンズで撮った写真
④ 明るいレンズで空間を切りとりたい
フランソワ喫茶室(AF-S NIKKOR 35mm f1.8G ED)
僕が個人的に好きなのは、その場の空気感とか雰囲気を切り取った写真。
端から端までを広角レンズで撮るよりも、 標準域の明るいレンズ で空気感とかディテールを “切り取る” のって結構難しいけど、その日の撮れ高に一枚でも、その場の雰囲気が感じられる様な「空間を切り取った」写真が交じっていたらめっちゃ嬉しい。
明るいレンズとは、一般的にf値の小さい “単焦点レンズ” の事を言います。f1.8 とか f1.4 とかっていうレンズですね。小難しい説明は抜きにして、単刀直入に言うと “描写力” がひじょーに高いレンズ です。
開放付近ではボケ味のある写真が撮れるし、絞ればキリッとしたシャープな解像を結びます。
僕はフルサイズ機種でいう “50mm” とか “35mm” の画角の単焦点レンズを室内撮影でも良く使います。このあたりの画角のレンズは 標準レンズ と言われていて、人が何かを眺めている時の視野と同じだそうで、最も自然な見え方の写真が撮れるのが特徴。
ただこの標準域の画角ってやつは、かなり写る範囲が狭いので、室内では部屋の全体像を撮る事が出来ません。しかも単焦点レンズは全くズームが効かないという曲者なので、自分が前に行ったり後ろに行ったりして構図を決めないといけません。
なので、自ずと “何をどう” 撮りたいのか? をきっちりと決めて撮らないと没写真を量産してしまいます。まして、単焦点レンズの多くは手ブレ補正が付いておらず、開放付近ではピント面も浅いので、上手く撮れたと思っていても、家に帰って拡大して見てみると「ブレとるしどこにもピントが合ってまへんな…」なんてことも良くあります。
ただ写真の “主題” が明確になり、それらを包む空気感だとか、その佇まいみたいなモノを描写するにはサイコーのレンズだと思うんですよね。
画角も狭くて扱いにくいレンズなので、手持ちでの室内撮影にはやや不向き感がありますが、それでもこの1本は期待を裏切らない必須レンズとして必ず出番を与えます。
標準域の単焦点レンズで撮った写真
⑤ 室内撮影の露出モードと測光モードについて
旧ウォーターハウス邸(TAMRON SP24-70mm F2.8 Di VC USD)
室内撮影をする中で、この辺りが一番の難所かもわかりません。僕もここらの仕組みを理解するのにずいぶん時間がかかりました。
室内撮影の露出モード
一眼レフカメラを持っていても、普段からオートモード(カメラ任せ)でしか撮影しない方は、「なんで 室内ってこんなに薄暗ーく写るの?このカメラ馬鹿なんじゃない!?」なんて一度は思った事があるはず。僕も昔はそうでした。
結論から言って、 室内撮影にオートモードは向いていません 。実はカメラって人間が思っているほど賢く無いんですよね。 1秒間に10コマ以上の写真が撮れる時代になっても、 カメラの仕組みは意外とアナログ なんです。
カメラの露出の基準というのは未だに “白黒カメラ” と同じで、 カメラが導き出す “適正露出” というのは黒と白の中間の “グレー色” 。
なので、カメラ任せのオートモードで撮影すると、部屋が明るければ明るいほど、白ければ白いほど、カメラはグレーに近づけようとするので “写真は見た目より暗く” なり、逆に 暗ければ暗いほど、黒ければ黒いほど “写真は見た目より明るく” なります。
オートモード以外で撮ったことのない方は、まずは “絞り優先モード” で撮影するのがいいと思います。ニコンカメラならAモード、キャノンならAvモードですね。
絞り優先モードであれば “露出補正” が出来るので、一枚撮ってみて暗いと感じたらプラス補正、明るいと感じたらマイナス補正する。これでずいぶん見た目と近しい写真が撮れるはずです。慣れてきたらマニュアル撮影に挑戦してみましょう。
室内撮影の測光モード
“測光” は、被写体の明るさを測ることをいいます。 被写体の明るさはカメラに内蔵された「測光センサー」が自動で測ってくれますが、画角内のどの部分の明るさをどのように測定するかは撮る人間が決めてあげないといけません。
それをカメラに指示するのが “測光モード” です。
より詳しく知りたい方はこちらをご覧下さい。
広角レンズなどで室内の全体を撮る時は “全体測光(マルチパターン測光)” で問題ないですが、窓際で撮影する時や、単焦点レンズでディティールを切りとっていく際には “スポット測光” に切り替えて、 ピントを置く被写体で測光 する様にしましょう。
窓際でスポット測光をして撮影した写真
⑥ 旅先の建築スナップに三脚は不要? ISO感度について
建仁寺 大書院(AF-S NIKKOR 20mm f1.8G ED)
旅行先で建築物を撮るときは三脚立てれない事が多いでしょ、そもそも、室内は三脚NGってところがほとんどですしね。でも写真やってる人間の性として使用がOKなら三脚立てて撮りたくなりますよね。
時間無制限であれば、しっかり三脚を構えてじっくりと構図を選んで撮っていきますが、そんなシュチュエーションは本当にごく稀。 なら、割り切って三脚はここぞという時しか使わないという選択も有りかなと思います。
最近のデジカメは常用感度も高いので、そこそこISO感度を上げて撮っても、素人レベルで気になる事はありません。 ISO感度を上げると、シャッタースピードも速くなる ので手ブレせずに写真が撮れるようになります。
あくまで僕の印象ですが、暗所ノイズが気にならないレベルの上限ISO感度は、フルサイズレフ機で2000ぐらい、APS−C機で1000ぐらいってところでしょうか。
フルサイズのミラーレス一眼機に至っては、感度をガンガン上げても暗所ノイズがほとんど気になりません。
また、多少暗く撮れてしまったとしても、デジタル写真は後から画像編集ソフトで露出を持ち上げる事が可能なので、まずは手持ちでもピンボケしないシャッタースピードに設定してしっかりとブレない様に撮る事が何より重要だと思います。
それでは、楽しいカメラライフを!
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