旧平賀邸「書斎」
イギリス郊外に建ち並ぶ瀟洒な田園住宅。それらの様式を忠実に取り入れたのが、平賀義美が大正7年に兵庫県川西市の猪名川沿いに建設した旧平賀邸です。
オーナーである平賀博士博士は東大卒業後にイギリスで染色技術を習得し、帰国後は「関西商工会の父」として日本工業界に功績を残した人物です。留学時代の思い出が蘇る邸宅で、平賀博士は試験管を振る毎日を過ごしていたといいます。
科学者が好んだイギリス趣味
イギリスの田園住宅に特徴的なビクチュアレスク様式の洋館は、その名の通り「絵のような豊かな表情」に富んだ外観を持ち合わせています。
出窓や煙突を自由に配置することで、当時は当たり前のように用いていた左右対称のデザインを大胆に崩し、どの角度からも異なって見える工夫が施されています。グレーに統一された洗い出しの外壁と、抑制された装飾が独創的なデザインをさらに際立たせているよう。
良質な木材が多用された邸宅内にはどこか温かい雰囲気が漂います。
天井に設けられたシーリングファンが目を引く書斎には出窓が設けられ、その上のステンドグラスや暖炉上の寄木細工の装飾がさりげない華やかさを添えている。
室内の壁面を彩っているのは、モダンデザインの父と称されたイギリス人デザイナー「ウィリアム・モリス」の壁紙です。
玄関ホールと書斎にはチューリップをモチーフにしたステンドグラスが配され、外光を柔らかく導き入れています。隣接する客間にはイギリスの住宅によく見られる「ベイウインドウ」と呼ばれる張り出しがあり、 室内に奥行き感を与えている。
旧平賀邸「客間」
旧平賀邸はその優れた意匠だけではなく、組み込み網戸を備えた二重窓やスチーム暖炉にシーリングファンなど合理的な設備も備えています。
また平賀博士の遊び心をうかがえるのが、邸宅内に隠し絵のように散りばめられたトランプのマークたち。
玄関上部の外壁には「ダイヤ」、玄関扉には「ハート」サンルームの扉には「クローバー」、書斎の天井には「スペード」といったデザインがあるので、こちらに訪れた際には是非探してみてほしいですね。
現在、旧平賀邸は兵庫県川西市に寄贈された後、当洋館とあわせて門屋、実験研究棟、東屋などが川西市郷土館に移築されています。
また、大正期における日本の近代建築史上重要な建物として国登録有形文化財に登録され「ひょうごの近代住宅100選」にも選定されています。近年はドラマ「べっぴんさん」や映画「繕い裁つ人」のロケ地として使用されました。
参考書籍:AGORA (June2012)
今回行った場所
旧平賀邸(川西市郷土館)公式HP
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