「旧徳力彦之助邸・チェリデザイン」京都のモダン建築を訪ねて

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S.L
旧徳力彦之助邸へ!


旧徳力彦之助邸

太秦うずまさに来るのは何年ぶりだろうか。

嵐電にコトコト揺られて、東映太秦映画村にほど近い「太秦広隆寺駅」で下車、映画村と反対方向に少しだけ歩を進めると、まわりの風景とは明らかに異質なチューダーゴシックの洋館がおもむろに姿を見せる。

お向かいにある太秦小学校の子供たちが、何事もない様に洋館の前を通り過ぎてゆく姿が印象的だったが、それだけこの建物が街の日常に溶け込んでいるという事なのだろう。

季節柄、前庭の樹木が青々と生い茂り、松と棕櫚シュロの隙間からハーフティンバーの屋敷が顔を覗かせている。

建物を囲む年季の入った煉瓦塀とエントランスを覆う蔦が、アンティーク好きにはたまらない雰囲気を醸し出している。

約束していた見学時間より30分ばかり早く着いてしまったが、玄関先を掃き掃除していた当館の気さくなご主人が快く宅内に迎え入れてくれた。



旧徳力彦之助邸

チューダー様式の屋敷


旧徳力彦之助邸

チューダー様式とは英国のチューダー朝期に由来するゴシック系の建築様式の事。日本で言うところの真壁造に共通する構造を用い、外観に柱が露出する山小屋チックな意匠が特徴的だ。ハーフティンバーとも呼ばれる。

日本でも人気のあるチューダー様式の住宅が流行を見せたのは昭和初期だが、京都のチューダー屋敷として最も有名なのは、昭和7年にW.M.ヴォーリズが下村正太郎の邸宅として設計した「大丸ヴィラ」だろう。建築当時はチューダーをもじり「中道軒」と名付けている。

大丸ヴィラと並んで、京都に現存する生きたチューダー屋敷として有名なのが、旧徳力彦之助邸だ。

二世紀前の豪華客船装飾が彩る屋敷

徳力家は代々西本願寺出入りの絵所を勤める家柄で、彦之助氏は徳力家の次男として生まれ、往時は漆芸作家として活躍した人物だったという。

当屋敷は彦之助氏が昭和12年に、住宅兼アトリエとして建てた建築となる。傾斜地のためRC造の地階に玄関を配し、その上にハーフティンバーの建物が乗っかった、所謂、混構造住宅だ。

玄関を入ると木製階段を配した吹き抜けになっていて、頭上からは明るい光が降り注いでいる。右手を見ると所狭しとステンドグラスの板材や革細工などの小物類が置かれたギャラリースペースとなっている。

なんと言っても旧徳力邸の魅力は屋敷を彩る装飾や設えにある。

昭和の建築当時、大阪で行われていた英国豪華客船の解体の折、船で使用していた内装部材や調度品を譲り受け、それらを用いて自ら設計デザインを手掛けたという。

港町の神戸で客船装飾を転用した古い住宅を見たことはあるが、内陸の京都市内ではかなり珍しいケースなのではないだろうか。

吹き抜け上部に配された3対のステンドグラスは、まるで教会のような神聖な雰囲気を醸し出し、ドアのガラスには大海原を航海する船の絵が描かれている。

黄色いステンドグラスに人魚が描かれた飴色の空間は、まるで御伽おとぎの世界を思わす様相だ。壁に使われている革素材なども船の内装材を使用しているという。

旧徳力邸は、現在、ご子息が屋敷を受け継ぎ、チェリデザインという名前のステンドグラス工房を営んでおられる。

アトリエは廊下を挟んで建物の中程にある。住居を兼ねているためか、間口に対して奥行きが長い建物形状は何となく京都っぽさも感じる。

アトリエ部分も二階までの吹き抜けとなって、創作空間として開放的なつくりとなっている。チェリデザインではステンドグラス技法やベネチアンガラスを使ったペンダント等の手作り体験もできるそうだ。



あとがき

徳力彦之助氏は「英国の田舎風住宅」に憧れていたというが、まさにそれを具現化させた、という印象の屋敷だった。建築家とともに自分の考える空間造りを行った、こだわりの住宅であることが感じられた。

国の登録有形文化財に指定される旧徳力邸は、時折、建物の見学会も行われているが、事前に予約をすればステンドグラス作品や建築の見学をさせて頂ける。

久しぶりの太秦で、とても良い空間に触れる事が出来た。

今回行った場所

チェリデザイン 公式HP



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