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「晩香廬・青淵文庫」旧渋沢栄一邸跡に遺された名建築を訪ねて

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S.L
渋沢家飛鳥山邸跡へ!


青淵文庫 「階段室」

桜の名所として知られる、東京・王子の飛鳥山。

かつてこの地には、日本資本主義の父 渋沢栄一 の邸宅が構えられていた。広大な敷地のなかに日本館と西洋館からなる母屋をはじめ、大小様々な建物が点在していたが先の戦災でそれらの多くが焼失した。

晩香廬ばんこうろ と 青淵文庫せいえんぶんこ は、空襲被害のなか奇跡的に遺された、往時の渋沢家の姿を現在に伝える貴重な大正時代の建築遺構だ。



「晩香廬」ハーフティンバーの洋風茶室

大正6年に竣工した 晩香廬ばんこうろ は、渋沢栄一の喜寿(77歳)を祝って、 現在のスーパーゼネコン5社のひとつ、清水建設(旧清水組)4代目当主の清水満之助が寄贈した洋風の茶室のこと。

渋沢が関わった事業は莫大な数があり、500の会社を育てたといわれている。渋沢が設立・運営に携わった企業を母体として、今も現存する企業の数は167社、うち過半数の99社は上場企業というから、やはりとんでもない実業家だったという事が伺い知れる。

そんな渋沢が育てた企業のひとつである清水組から、彼への恩返しとして贈られたのが「晩香廬」だ。小さな建物ではあるが、建築装飾はもとより、暖炉や火鉢といった調度類、机や椅子などの家具にいたるまで細やかな心遣いが感じられる。

設計を担当したのは、芸術家肌の建築家として評価された清水組技師長の田辺淳吉。建築だけでなく芸術や工芸にも精通していた田辺は、建築と工芸が調和した居心地の良い空間を構想し、使用する材料やその仕上げなど室内の隅々まで心を配ったという。

内装の細部の仕上げには、当代一流の工芸家や職人が参加し「建築と工芸の提携」という新しい試みがなされている。

談話室の暖炉上部中央には、渋沢栄一翁の喜寿を祝った『壽』の文字を表したタイル飾りがアレンジされている。

大正11年、日本で平たい装飾焼物が「タイル」という名称で統一されてから100年を迎えた。晩香廬ができたのはそれ以前にあたるので、まだタイルが「化粧煉瓦」や「貼付煉瓦」などと呼ばていたころの粋な計らいだ。

渋沢栄一はこの建築をとても気に入り、 内外の賓客を迎えるレセプションルームとして使ったのだとか。また「晩香廬」の名は渋沢が自作の漢詩 “菊花晩節香” からとって命名したそうで、バンガロー(Bungalow)の字音に当てはめたともいわれている。



「青淵文庫」美しき記念書庫

青淵文庫せいえんぶんこ は、渋沢の傘寿(80歳)と男爵から子爵への昇格の祝いを兼ねて、現渋沢栄一記念財団から寄贈された記念建築だ。 設計は晩香廬と同じく田辺淳吉だが、建物の印象は大きく異なる。

安山岩張りで仕上げられた外観はどこかアール・デコの雰囲気をまとい、内部には渋沢家の家紋にちなんで “柏の葉” がデザインされたステンドグラスやタイルが要所に施され、この時代ならではの職人の心意気の様なものが感じられる。

大正11年の工事着手翌年に発生した関東大震災により工事は一時中断、着工から約3年後の大正14年に竣工した青淵文庫。 未曾有の災害を経験した経緯により、構造はレンガ一枚半積みの内側に鉄筋コンクリートの壁を増し打ちして、堅牢性と耐火性を担保している。

渋沢栄一の雅号「青淵」にちなんだ名の書庫として計画され、彼が収集した徳川慶喜の伝記史料や論語関係の書籍を収める予定だったが、それらも震災で焼失してしまい、 竣工後は主に国内外からの訪問客をもてなす迎賓館として使用された様だ。

往時、応接室として使われたという閲覧室は、豊潤な装飾に包まれた空間だ。天井近くまでダイナミックに配された、連装窓のステンドグラスから導き入れられる柔らかな光で各部の装飾が明滅する。

窓の四方を額縁の様にぐるりと囲むのは、昭和の名建材「泰山タイル」の生みの親、池田泰山プロデュースの「泰平居タイル」。

二階の書庫へと向かう階段室は、往時から建物のなかでも最も美しい空間と言われていたというだけあって、なんともフォトジェニックだ。

規則だだしいスクエアなシルエットで構成された青淵文庫のなかで、それらとは対照的で柔らかな円筒形の空間が二階まで続いている。艶めかしくカーブする螺旋階段の手摺の隙間から溢れる窓の光が眩く揺れていた。

大正時代の建築は、肩に力が入った明治の様式建築とは対照的に、設計者のオリジナリティや遊び心が見え隠れしてとても楽しい。緑豊かな公園で、そんな大正期に建てられた好対照な2つの重要文化財建築をじっくりと堪能するのもいいものだ。



今回行った場所

晩香廬

青淵文庫

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