秋入梅の季節に少しばかり晴天が続いた初秋の休日、神戸六甲の山頂付近にある教会建築 “風の教会” まで行ってきた。
風の教会とは 1986年(昭和61年)に六甲オリエンタルホテルの庭園内に、同ホテルの結婚式場施設として安藤忠雄の設計により建てられたチャペルのこと。
六甲の教会
2007年にホテルは閉鎖され、既に取り壊されていますが、この教会だけは解体されずに六甲山の山頂付近の森のなかにひっそりと佇んでいます。
風の教会はその立地から 六甲の教会 とも呼ばれ、安藤忠雄が手掛けた初めての教会建築としても良く知られている。また、大阪の “光の教会” 、北海道の “水の教会” と共に、安藤氏が40代後半の頃に手掛けた “教会三部作” のひとつにあたります。
建築後30年を過ぎても古さを感じさせないシンプルな外観デザインですが、この教会が建てられた1980年代後半から1990年代初頭の “バブル期” に流行した “ポストモダン建築” のこってりとしたデザインのなかにあっては、こっちの方が異質だったのかも知れない。
すりガラスの半透過の空間が特徴的なガラス張りのコロネードは、安藤建築の代名詞ともいえる「コンクリート打ち放し」で建設した小さな礼拝堂につながっている。
安藤氏はこの教会を設計するにあたって神聖な空間をつくり出すことに注力し、装飾的要素を最小限にとどめたフランスのセナンク修道院などを参照したといいます。
長椅子がひっくり返っているのは、決して誰かが癇癪を起した訳ではありません。。
六甲山でこの10年近く毎年行われている、秋の芸術祭典 六甲ミーツ・アート芸術散歩 の会場のひとつとして、風の教会もエントリーされていて、ひっくり返った椅子たちもまた、所謂、現代アートの一部なのでございます。
僕はアートというものに決して明るいわけでは無いですが、映像作家として国内外で活躍する「さわひらき」氏の静かな作品と、山中の静かな建築の空気感が綺麗に調和していた様に思います。
風の教会の内部空間構成は、天井と壁の無機質な “打ち放しコンクリート” と、床に敷かれた真っ黒な “玄昌石” のみという 至ってシンプルで飾り気のないもの。 どこか 昨今 流行りのインダストリアルテイストな雰囲気があって、30年以上前の建築当所より、ある意味 今風かも知れない。
堂内の壁面に掛けられた “黒い十字架” にはRCフレームが用いられ、礼拝堂内の一番後ろにも無骨な “黒いオルガン” が無造作に置かれていて何ともイイ味を出しています。オルガンの音は全面コンクリート打ち放しの小さな礼拝堂内ということもあって良く反響するといいます。
旧六甲オリエンタルホテルの廃業後、 この教会堂もメンテナンスがままならず老朽化の一途をたどっていた様ですが、2018年に修復工事が行われて、結婚式や展示会場、撮影会場等に利用可能な貸しホールとして再生されています。
さて、せっかく六甲まで来たので、もうひとつの安藤建築にも立ち寄ってみた。
六甲の集合住宅
六甲の集合住宅 第1期 建築
建築に携わる人間なら、何かしらの機会に見聞きした事があるであろう、安藤忠雄のビッグプロジェクト “六甲の集合住宅” 。 神戸の安藤建築といえば、風の教会よりむしろこっちの方が有名ですね。
建築地は六甲山の麓、なんと60度の勾配をもつ南向きの傾斜地に張り付く様にしてRC造の集合住宅が建てられています。
第Ⅰ期の建築は1978年から開始されて1983年に竣工。その後も第2期、第3期と規模を拡大し、そして2009年竣工の老人ホームと病院施設である第4期まで含めると、なんと30年がかりのプロジェクトということになります。
実は過去に一度だけ、1期の建物内を内覧した事があるのですが、最上階(だったと思う)の大開口窓から望む神戸の街並みと、その向こうに見える海がめちゃめちゃ綺麗だったのをよく覚えている。
第1期の写真で窓にかけられている “簾” の様な日除けも全住戸共に全く同じものというのが分かるでしょうか? これも安藤忠雄氏の意向によって築後30年以上経つ現在も統一されていて、美しい外観が保たれているのだとか。
やっぱこだわりも凄いっすね、ANDO先生。
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今回行った場所
風の教会 公式ホームページ
六甲の集合住宅