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「飛田会館」飛田新地の歴史を伝える、現役色街の近代建築

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S.L
飛田会館へ!

大正7年開業の大阪市西成区「飛田新地」は、100年の歴史を持つ日本最大級にして現役の “色街” だ。

飛田新地のエリア内に入ると、ある種、時代や社会から隔絶されたような空気が漂い、料亭と呼称される約160の妓楼が妖艶な風情を醸し出し、古き時代の遊郭の佇まいを今に伝えている。

昭和12年建設の 飛田会館 は 飛田遊郭組合・帳場組合・娼妓組合 という3つの組合の会館として建てられたもの。 当時流行した結核やスペイン風邪の感染症対策のため、飛田新地創業時建築の木造建物から、現在のRC造に建替えられている。



飛田遊郭が隆盛を極めた昭和初期の近代建築


飛田会館 3階 議場

江戸時代から大阪のあちこちに点在していた遊郭のなか、飛田新地は後発の部類にあたるが、大正7年の開業から20年も経たない昭和10年前後には、明治時代から続く大阪の松島や、東京の吉原と肩を並べるほどの遊郭として隆盛を極めている。

7軒で開業した貸座敷の数も瞬く間に240軒まで増え、昭和初期には娼妓の数も3,000人を超えていたとされる。その当時からの組合の歴史を今に体現していると言えるのが、現在も組合の事務所が置かれる「飛田会館」だ。

江戸時代の遊郭風情を演出して建てられている妓楼建物群とは一線を画した近代建築「飛田会館」は、現在の貨幣価値で約3億円強の建設費を投じて建設されている。戦時下らしく、屈強な鉄筋コンクリートの構造で建てられた会館の一室には 大阪陸軍本部 西成憲兵隊支所があったという。

会館内部には、今も事務所や会議室として使われている1階の各部屋に加え、2階の旧検査場や、3階の議場などが往時の趣のまま残されている。

2階 旧検査場

日本において明治時代から昭和初期にかけて遊郭は増加の一途をたどったのだが、それに比例して当時の日本では性病の罹患者比率がきわめて高く、イギリス海軍は娼婦から性病を移されることを問題にしたこともあったという。

今は物置として無数の提灯がずらりと保管されている飛田会館の2階広間。公娼制度の時代、ここが飛田で働く娼妓の性感染症 検査場として使われていた。

木板の床に穴がくり抜かれていて、医師が床下に待機し、穴の開いた床の上を女性たちが歩く形式で検査が行われた。検査の日、娼妓たちは各妓楼でお揃いの着物を着用し、魔除けとして玄関で刃を上に向けた出刃庖丁をまたいで外出したといわれている。

問題がなければ表から帰り、検査で引っかかると、裏から別の病院に行き、2週間の治療後に再検査を受診し、問題が無ければ復帰となったのだとか。

天井に備えられたクーリングファンは、大正から昭和初期にかけて公衆衛生上の脅威だった肺結核の感染対策だ。大勢の客で賑わう遊廓はクラスター化の恐れが常にあったため、飛田会館建設にあたっては当時最新の陰圧室仕様で、感染症対策が最重視された。

役目を終えた床下階段や「女子用」と書かれた便所の扉が目を引く。 モノトーンの仄暗い空間に整然と提灯が並んだ空間は、どこか異質な空気に満たされており、ギシギシと鳴く床板の音が何かを語りかけてくる様だった。

3階 旧議場

3階には階段式に席が並んだ議会の議場のような部屋が残されている。まるで戦前の組合の権威を示しているかのようだ。この部屋は現在はまったく使われておらず、組合関係者ですら入ったことのない人もいるのだとか。

往時、飛田新地の参入には株制度が取り入れられ、株さえ購入すれば誰でも参入できたという。この会議室は株の説明会の議場などの用途で使われていたらしい。

飛田会館は普段は一般に公開されていないが、2023年の「大阪関西国際芸術祭」作品展示会場としてエントリーされた。旧議場では飛田新地エリアを記録した映像が静かに流れ、老若男女、作品や建築に見入る方々が大勢いらっしゃった。



あとがき

飛田新地は戦災を免れているエリアも多く、大正時代に建てられた妓楼を改築しながら、今も使われる建物が多数現存するといわれている。

まちそのものが生きた文化遺産として、もっと評価されても良い場所とも思えるが、昭和33年の売春防止法施行以降、いわゆる「遊郭」は近代日本が生んだ影の部分的な要素があるので致し方ないのであろう。

一世紀前の感染症、戦災、高度経済成長、バブル崩壊、そしてコロナ禍と、百年の歴史を静かに見てきた飛田会館には、時を凝縮して詰め込んだような建物のパワーを感じた。

大正期の妓楼をそのまま料亭に転用した「鯛よし百番」と併せて、大阪の大衆文化を伝える建築として長く残って欲しいものだ。




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今回行った場所

飛田会館

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