海と山に挟まれた小さな街「塩屋」
東西に長く伸びる六甲山脈と海に挟まれ、異国文化と融合しながら発展してきた神戸。
なかでも山と海が最も接近する神戸市垂水区の “塩屋町” は、どこか離島の様な穏やかさを感じる神戸市最西端の小さな街。その昔、塩屋はその地名の通り、塩の生産が盛んな田舎町だったそうです。
塩屋は海の向こうに淡路島を望む、温暖で “風光明媚” な街。
神戸三宮から車で西へ20分。須磨浦公園を過ぎてキラキラと光る海を横目に潮風を感じて走る、海岸沿いのドライブはとても気持ちがよくて大好きなロケーションです。
明治時代に入って、神戸市以西の鉄道開発が始まったことをきっかけに、それに携わった外国人技術者たちが須磨や塩屋周辺の山麓に自宅として洋館を建てる様になり、いつしか海からすぐの傾斜地に幾つもの洋館が建ち並ぶようになったと言われています。
昭和に入るとイギリス人貿易商のE・W・ジェームス氏が自宅である “ジェームス邸” の着工と合わせて、塩屋山麓一体の大規模開発を進め、約7万坪(東京ドーム5個分の面積)の開発地に60棟以上の外国人専用住宅を建てました。
明治期の塩屋海岸
今でさえどこか異国の田舎町の様な雰囲気の塩屋ですが、その当時はほとんど外国の様な雰囲気だったのかも分かりませんね。
時代背景により残念ながらそのほとんどは現存していませんが、山裾に少しだけ古い洋館が残っています。そんな塩屋に残る洋館のなかでも、もっともよく知られているのが、築100年を超える邸宅 “旧グッゲンハイム邸” です。
旧グッゲンハイム邸
JR塩屋駅、山陽塩屋駅から5分ほど歩くとなんとも可愛らしい外観の洋館が見えてきます。
明るいコロニアルスタイルの外観意匠と、ブルーグリーンの色使いが、海の青、空の青と良く調和してどこか南国の様な空気感がある。
この建物は明治から大正期に神戸で貿易商を営んだドイツ人貿易商グッゲンハイム氏が、1909年〜1915年頃に建てたとされる洋館です。
この建物の建築年や設計者については正確に記されたものが無い様ですが、建築年や作風から神戸北野のシュウエケ邸など、明治期の神戸で多くの西洋住宅設計を手掛けた英国人建築家 “アレクサンダー・ネルソン・ハンセル” の設計と推測されています。
可愛らしいデザインの5連アーチ窓がある2階のベランダからは、塩屋海岸とその向こうに広がる海が望めます。
「旧グッゲンハイム邸」の魅力は、その鮮やかな色遣いと目の前に海を臨む美しい景観と一体になった開放的な室内空間です。
住居としてはあまりに開放的な設計とその間取りから、「迎賓館」の用途として建てられたのではないか?と、現在こちらの管理をされている森本アリさんは推察されています。
阪神淡路大震災以降、空家となり取り壊されるとも言われていた “旧グッケンハイム邸” ですが「地域の財産であるこの歴史ある洋館を残さなくては!」と、塩屋在住のステンドグラス作家デュルト・森本康代や、そのご子息である、前述の森本アリさんらが一家の私財をなげうって購入し、この建物を解体の危機から救いました。
取得後も建築基準法上「再建築不可(建て替え不可)」であるこの物件を自らの手で修復し、現在も丁寧に維持管理されておられます。
旧グッゲンハイム邸物語
この記事を書くにあたって、森本アリさん著の「旧グッゲンハイム邸物語」という本を読ませてもらった。
森本さん一家が、風化し解体寸前だったこの物件を購入するに至った経緯、そして経済的合理性がないという理由により、次々に失われていく歴史的文化遺産への思いなどが記されています。
記憶の新しいところでは、神戸における近代洋風建築の先駆けであった、ファミリアホール(旧三菱銀行神戸支店)が超高層マンションの建設のため解体されてしまいましたよね。
古いものを後世に残すべく維持管理してゆくには、計り知れない苦労と莫大なコストがかかるので、あまり勝手な事は言えませんが、ひとつでも多くの歴史的文化財が50年100年と長く息づき、その類稀な佇まいで後世の多くの人にも感動を与えて続けて欲しいと思います。
この「海と山に挟まれた小さな街」塩屋の旧グッゲンハイム邸という歴史的文化財が、地域の方々によって有効活用され存続してゆく良き成功例として、末長くその可愛らしい姿を残してくれれば嬉しく思います。
現在、旧グッゲンハイム邸は、コンサートや結婚パーティーや雑誌のロケ撮影など、様々な用途で利用される場となっています。毎月第三木曜日に自由見学ができるようなので、ご興味のある方は一度のんびりとした街と邸宅に足を運んでみてはいかがでしょうか?
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今回行った場所
旧グッゲンハイム邸 公式ホームページ